下肢虚血に関する治療開発、最新状況について

イモじろう

前回のマナビラボでは、遺伝子治療薬『コラテジェン』がどんなものでなぜ効くのか理解を深めました。コラテジェンのほかにはどんな新しい治療法があるのかな?

けんたろう先生

再生医療としては、現在のところ保険適用として承認されている治療法はコラテジェンだけです。でもほかにも様々な治療法の開発が進められています。今回は、下肢虚血の疾患について、再生医療の開発状況を見ていきましょう。

再生医療が承認されるまで

どういった研究開発が行われているかを確認する前に、再生医療が実用化されるまでの流れをおさらいしましょう。
マナビラボ令和2年度第7回でお話しましたように、

①基礎研究 → ②前臨床試験 → ③治験(臨床試験) → ④申請
の流れを経て、保険適用の治療として厚生労働省に承認されます。

また、この流れとは別に自由診療として行われる治療もあります。 それでは、どのような治療法が開発されているか、段階ごとに見ていきましょう。

治験段階の治療法

自己CD34陽性細胞移植治療/カラドリウス社

2021年6月現在、申請段階にある重症下肢虚血に対する再生医療はありません。現在、アメリカのカラドリウス社が日本で治験を進めている自己CD34陽性細胞移植治療が次の承認に最も近い治療法です。

「CD34」というのは、細胞の表面に出ている目印のようなもので、「細胞表面抗原」や「細胞表面マーカー」と呼ばれます。血管細胞や筋肉細胞といった細胞の種類によって決まった目印を持っていますので、特殊な装置を使って決まった目印を持つ細胞だけを分離して集めることもできます。

そのような目印の中で、血管幹細胞が持っている目印がCD34です。このことを世界で初めて発見したのが、当機構理事長の浅原孝之先生です。そこで、患者さん自身の血液の中からCD34を持つ細胞を集めて移植することで、患部の血管の再生を目指すのが、この自己CD34陽性細胞移植治療です。現在、治験が進められていて、早ければ2023年に承認を得られることが期待されています。

臨床試験段階の治療法

保険適用の承認を目的に安全性や有効性の確認を行う試験が「治験」ですが、大学病院などでは新しい治療法の有効性を確かめるために、治験の前に研究としての臨床試験(臨床研究)を行うことがあります。この臨床試験で有効性を確認した後に、保険適用を目指して治験に進んだり、もしくは自由診療として実施したりします。

2021年6月現在、すでに臨床試験を行っている重症下肢虚血の治療法には、以下のようなものがあります。

自家末梢血生体外培養単核球細胞移植治療順天堂大学⾎流、痛み、歩⾏が改善し、移植を受けた10名の患者さん全員が下肢切断を回避できました。 現在、治験に向けて準備中です。
骨髄単核球細胞移植治療京都府立医科大学115例の患者さんの3年間にわたる有効性、安全性、長期予後を確認しています。 現在、先進医療Bとして行われています。
骨髄単核球細胞移植治療日本医科大学46例の患者さんに移植を行い、移植後4 週後には痛みや⾎流の改善が⾒られています。移植3年後の段階で80%の患者さんが下肢切断を回避できています。
自家脂肪組織由来幹細胞移植治療名古屋大学を始めとする8施設29例の患者さんに移植を行う、痛み、潰瘍、歩⾏が改善がみられています。移植6ヶ⽉後の段階で90%以上の患者さんが下肢切断を回避できています。
自家脱分化脂肪細胞(DFAT)移植治療日本大学2020年より試験が開始され、現在経過観察中です。

これらの治療法の全部が保険適用の申請へ進められるわけではありませんが、このような臨床試験によって多くの臨床データが積み重なることで、よりよい治療法の開発へとつながります。

今回紹介した以外にも、大阪大学をはじめ多くの大学、研究機関で基礎研究が進められています。今後も多くの治療法が登場し、患者さんの状態に合わせた最適な治療法が選択できるようになることが期待されます。

今月の学び

イモじろう

コラテジェンに続いて、色々な治療法が開発されているね。

けんたろう先生

そうです。患者さんの状態によって最適な治療法は日々変わります。多くの患者さんが救われるでしょう。