膠原病性難治性潰瘍について〜閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍との違い。
膠原病とは?
私たちの体には、外からの微生物などの異物から身を守ために、それを排除しようとする‘生体防御反応‘が備わっています。主にリンパ球と呼ばれる細胞と、異物と結合するタンパク質(抗体)がその役目を担っています。膠原病の患者さんは、この仕組みが乱れてしまい、自分自身に反応するリンパ球や抗体を作り自分に対して免疫反応を起こしてしまいます。そのため膠原病は’自己免疫疾患’とも呼ばれます。どうして自分自身を標的にしてしまうのかはまだ解明されていません。つまり、 ‘膠原病’とは一つの病気でなく、‘自己免疫’により、体のさまざまな臓器に炎症が起きる疾患の総称です。
膠原病でどうして潰瘍になるの?
血管に炎症が生じる状態を‘血管炎’といいます。血管炎により血管が傷むことで、血管の壁が厚くなったり、内腔が狭くなったりします。すると、手や足の指に十分な血液が届かなくなり、冷たく、青白くなります(チアノーゼと言います)。多くは両側の指に同じようなことが起こります。このような状態が続くと、指の先にできた小さな傷が治らずに‘潰瘍’を生じてしまいます。動脈の中に‘血栓’と呼ばれる血の塊ができたり、動脈の血管の壁に炎症による線維化を生じることでも、血管は狭くなります。膠原病の治療には、全身の炎症を抑える効果のある ステロイドや免疫抑制剤が使われます。効果のある薬ですが、同時に、感染しやすくなる、傷の治りが悪くなる、といった傷にとって悪い面も持っているため潰瘍ができやすく、治りにくくなります。
閉塞性動脈硬化症(ASO)による潰瘍との違いは?
閉塞性動脈硬化症(ASO)は、動脈硬化により血管が狭くなる病気で、上肢より下肢に多く起こります。多くの場合、指だけでなく、血管が狭くなった側の足全体や下肢が冷たくなります。糖尿病や透析の患者さんに多いのが特徴です。長時間歩行するとふくらはぎが痛くなる‘間欠性跛行(かんけつせいはこう)’という症状で始まり、進行すると普段から足が痛くなります。重症な人では足を上げるとさらに白く冷たくなり、痛みも悪化するため、ベッドから足をおろしていないと痛くて寝られないこともあるくらいです。
治療は狭くなった血管をカテーテルで広げたり、詰まった部分を迂回して血液を送るバイパス術が行われます。このように、膠原病でできる潰瘍と、ASOでできる潰瘍はどちらも血管が狭くなることで血流が悪くなり生じますが、その原因が異なります。また膠原病の血管は炎症によって傷んでいるため、ASOのようなカテーテルやバイパス術による治療がとても難しいです。膠原病患者さんがASOを合併することもあり、さらに治療が難しくなります。ASOを治療できる病院は多くありますが、膠原病による潰瘍をきちんと治療できる病院は少なく、多くの患者さんが苦しんでいるのが現状です。
藤井 美樹 先生プロファイル
■著者 藤井 美樹 先生
順天堂大学医学部形成外科学講座 准教授
■所属学会
日本形成外科学会・American Society of Plastic Surgeons Association of Diabetic Foot Surgeons (Executive board member)・日本下肢救済・足病学会(評議員)・日本褥瘡学会(評議員)・日本創傷外科学会 (評議員)他。
■研究
糖尿病性足潰瘍の骨髄炎発症メカニズム