人(ヒト)と生物の再生のしくみや違いについて、 なぜ人(ヒト)は、失った組織などを再生しないのか
前回のマナビラボでは、私たちの体が形作られる「発生」と、元に戻る力である「再生」の仕組みについて学びました。今回は、私たちヒトよりも再生力の強い生物の再生について学びましょう。
生物学では生物種はカタカナで表記するというルールがあります。そこで、ここでは「人」を「ヒト」と表記します。
なぜトカゲのしっぽはまた生える?
生物の中には、ヒトにはない再生力を持っているものがいます。有名なところでは、トカゲは身の危険を感じると自らしっぽを切って逃げますが、しばらく経つとしっぽはまた生えてきます。
では、トカゲのしっぽはどのようにして再度生えてくるのでしょう?この仕組みは私たちの傷が治る仕組みと同じで、幹細胞が関わっています。実はトカゲのしっぽの切断部分にはヒトと比べて多くの幹細胞が存在していて、しっぽが切れるとこれらの幹細胞が働き、再度しっぽを形作るのです。ただし、筋肉や血管の幹細胞はいますが骨の幹細胞はいないため、再生したしっぽには骨がありません。また、何度も生えてくるわけではなく、再生できるのは一生に1回だけなのです。
アカハライモリは再生のチャンピオン
さて、本血管医学研究推進機構のマスコットキャラクターと言えば、アカハライモリのイモじろうくんです。実はアカハライモリは、生物の中でも 1,2 を争う強い再生力を備えています。アカハライモリはしっぽだけでなく、手足や目、さらには脳や心臓の一部など、体の多くの組織を再生できることが分かっています。しかも、例えばしっぽの場合、トカゲと違って骨も含めて切断前とまったく同じ状態に、何度でも再生することが可能なのです。
それでは、なぜアカハライモリの再生能力はなぜこんなに強いのでしょうか?実はアカハライモリの再生は、ヒトやトカゲの再生とは違う仕組みが働いています。
例えば、血管の幹細胞が血管細胞というように、専門的な組織の細胞になることを「分化」と言います。通常、この分化は一方通行で、一度分化した細胞が逆戻りして幹細胞に戻ることはありません。ところが、アカハライモリが体に傷を負うと、その箇所の細胞が幹細胞に戻り(これを「脱分化」と言います)、発生の時のように再び体を形作ることができるのです。
このアカハライモリの再生の仕組みを医療に応用できないかと、研究が進められています。この分野の研究は始まったばかりで、なぜ脱分化が起こるのか?どうやったら起こせるのかといった詳しいメカニズムはまだ分かっていません。でも、もしかするといつかヒトでも、治療によってアカハライモリのように失った手や足を再生することができるようになるのかもしれませんね。
今月の学び
アカハライモリは「脱分化」という特別な仕組みで体の中で幹細胞を作り出し、失った組織を再生することができます。ヒトの体にはこの仕組みがないため、一度失った組織を再生することができませんが、この仕組みを医療へと応用する研究が進められています。