「幹細胞培養上清・エクソソーム治療についての注意点」

イモじろう

けんたろう先生、最近、幹細胞培養上清やエクソソームという言葉をよく聞くけど、これも再生医療なの?

けんたろう先生

最近、自由診療として幹細胞培養上清やエクソソームを使った治療を行うクリニックが増えてきていますね。これらも細胞の力を利用した治療と言う意味では再生医療のひとつと言えます。

ただ、従来の再生医療は国に定められた規制に従って行うこと義務付けられていますが、これらの幹細胞培養上清やエクソソームを使った治療法はまだ規制の対象となっていませんので、受ける際には注意が必要です。

イモじろう

えっ?
幹細胞培養上清やエクソソームって危険なの?
詳しく教えてください!

けんたろう先生

それでは、今回は幹細胞培養上清やエクソソームがどういったものか、治療を受ける時にはどういったことに注意する必要があるかをお話します。

細胞培養上清とエクソソーム

以前から多くのクリニックで、肌の若返りや膝の痛みの治療、さらに血管新生などを始めとした再生医療の自由診療(自費診療)が行われていることはご存知のとおりです。それらの再生医療クリニックで最近「幹細胞培養上清」や「エクソソーム」という言葉を見かけるようになりました。この記事をお読みの方の中にも目にした方、治療を受けることを考えた方もいらっしゃるかもしれません。なかなか聞きなれない言葉ですが、これらはいったいどういうものでしょうか?

幹細胞培養上清もエクソソームは、実はいずれも細胞が分泌する因子に関係するものです。この2つがどういったものかの説明の前に、まずは細胞を使った再生医療の流れをおさらいしましょう。

自由診療では、自分自身の細胞を使った再生医療が行われます。まずクリニックで皮膚や脂肪組織、場合によっては血液などを採取します。その後、クリニック内、もしくは専用の培養施設で、採取された組織から細胞が取り出されます。取り出された細胞は治療に使うには量が少ないため、培養して量を増やしてから治療に使われます。

「細胞を培養する」といってもイメージがわきませんね。細胞は培養ディッシュや培養フラスコと呼ばれる特殊な加工をした容器の中で、培養培地という糖やタンパク、ビタミンなどの栄養がたくさん入った液体をエサにして飼育=培養されます。細胞は培養ディッシュの底に張り付いた状態で、培養培地から栄養を取り込みながら分裂しながら増えていきます。例えば私たちの皮膚が傷ついた時には、傷口の箇所にいる細胞は自分自身も分裂しながら、さらに周りの細胞の増殖を促すような因子を分泌することでお互いに協力しながら増殖することで、傷口を早くふさぐことができます。同じように培養をされている細胞たちも因子を分泌しながら培養容器の中で増殖をしています。培養後の培養培地のことを培養の上澄みの意味で「培養上清」と呼びますが、この培養上清の中には細胞が分泌した因子が多く含まれているというわけです。

そのような細胞分泌物のひとつが「エクソソーム」です。エクソソームは栄養素の名前ではなく、中に色々なものが入った小包のようなものです。細胞が中に色々なものが入っている小包を分泌していること自体は30年以上前から知られていましたが、最近になってこの小包の中には細胞の増殖や機能を促進する物質が含まれ、さらにその小包を細胞同士でやりとりすることで細胞同士がコミュニケーションを取っていることが分かり、注目されるようになりました。細胞の培養中にはこのエクソソームも細胞から分泌されて、培養上清の中に含まれています。

このように培養上清の中には細胞が分泌する因子やエクソソームが含まれていますが、細胞の中でも特に「幹細胞」は細胞の増殖や機能の促進に有効な因子やエクソソームを分泌することが知られています。そこで、肌の若返りや膝の痛みの治療、血管新生などを目的に幹細胞の培養上清を注射する治療が「幹細胞培養上清治療」や「エクソソーム治療」と呼ばれる治療です。

イモじろう

幹細胞培養上清治療やエクソソーム治療は、細胞を培養したときの上ずみ液を使うんだね。これらの治療は効果はあるの?安全かどうかも気になるなぁ。

けんたろう先生

それでは、次にこれらの治療の効果と安全性についてお話しますね。

細胞培養上清治療とエクソソーム治療の効果

この記事をお読みのみなさんが一番気になることは、やはり細胞培養上清治療やエクソソーム治療は本当に効果があるのかどうかということだと思います。これらの治療の効果については、現段階ではあるともないとも言えない状況です。

細胞培養上清の中に細胞の増殖や機能の促進に有効な因子が含まれていることは確かです。ただし、具体的にどういった成分がどの程度の量含まれるかは培養の状態によって変わりますし、治療目的に合った成分が十分に含まれているかどうかも分かりません。

エクソソームについても同様です。エクソソームは「中に色々なものが入った小包」と説明しましたが、その中身は小包ごとに違います。中には治療効果のある因子を含んだエクソソームもありますが、そうでないエクソソームもあります。有用なエクソソームが培養上清の中にどの程度の量含まれるかを調べることは、現在の技術では非常に困難です。

このような中から治療効果のある成分だけを抽出・精製し、さらに動物試験や治験でその効果が確かめられたものが、厚労省に認められた保険適用の医薬品です。医薬品に比べると、現段階では細胞培養上清治療やエクソソーム治療はまだ数歩手前の状態です。だからと言ってまったく効果のない治療法と言うつもりはなく、その時の細胞培養上清に含まれる成分・量と患者さんの症状によっては治療効果が得られる可能性はありますが、医学的に有効な治療法とはまだ言えない段階です。

実は私自身、以前エクソソームの研究に関わったことがあり、今でもエクソソームには注目しています。この記事ではクリニックなどでの呼び名に合わせて「エクソソーム治療」と称していますが、私の実感としては、実際は「有効なエクソソームが一部含まれている(かもしれない)治療」というのが正直なところです。今後研究が進み、治療効果のあるエクソソームのみを抽出することができるようになり、本当の意味での「エクソソーム治療」が実現されることを期待しています。

細胞培養上清治療とエクソソーム治療の安全性

治療と言うと効果の方を気にしてしまいがちですが、何より大事なのは安全性です。それでは細胞培養上清治療とエクソソーム治療の安全性はどうでしょうか?

実は、場合によってはこれらの治療によって有害な反応が起こるリスクが懸念されています。

ひとつは、細胞が分泌する因子によるリスクです。先ほど説明しましたように、実際に細胞の培養上清の中にどのような成分や量の因子やエクソソームが含まれているかは正確には分かりません。そのため体内に投与した時に予期せぬ反応が起こる可能性は否定できません。

ただし、基本的にはヒトの細胞が分泌するものであり、また投与される量も限られますので、個人的にではありますがこのリスクはそれほど心配するものではないと考えています。

もうひとつは、感染症のリスクです。みなさんもご存知の通り、私たちの身の回りには目には見えませんが多くの菌が存在しています。細胞培養の説明の時にお話したように、培養培地には細胞が育つための栄養がたくさん含まれています。そのため、細胞の培養中に菌が混入してしまうと、菌も増えてしまい培養上清が汚染されてしまいます。この状態で投与されることで感染症が起こる危険があります。実際に2019年にアメリカでは自由診療で培養上清の投与を受けた患者さんが感染症を発症し、FDAが警告を出す事態がありました。また、培養上清の菌の汚染を防ぐために培養上清に抗生物質が加えられている場合もあり、ペニシリンなどにアレルギーのある方は注意が必要です。

イモじろう

海外では感染症が起こっているなんて怖いなぁ。日本ではどうなっているの?安全な治療を受けるには何に気をつけたらいいの?

けんたろう先生

日本では、細胞治療については安全な治療を行うために守らないといけない法律がありますが、実は培養上清やエクソソーム治療についてはまだ規制は整っていません。そのため、これらの治療を受けるにあたっては担当の医師に安全性について十分に確認する必要があります。

安全な治療を受けるには?

こういった安全性のリスクは幹細胞治療にも言えることです。実は2010年に国内で幹細胞の投与を受けた患者さんが亡くなるという医療事故が起こりました。幹細胞治療は比較的新しい治療であるため、当時は規制がなく完全に自由診療として行われていましたが、この事故がきっかけとなり幹細胞治療を含めた再生医療の安全性を守るための法律として、2014年に「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」が制定されました。この法律では、再生医療を行う際には治療計画について専門の委員会の審査・承認を受けること、そして治療に使う細胞は厚生労働省の認可を受けた専用の施設内の無菌環境下で培養することを義務付けることで、再生医療を受ける患者さんの安全を最大限守っています。

ただし、この法律はあくまで自由診療としての再生医療の安全を守るための法律ですので、専門の委員会の承認を受けたからといっても保険適用とは別であり、また治療効果を保証するものではない点にご注意ください。

ここで一つ大きな問題があります。この法律が制定された時点ではまだ幹細胞培養上清治療やエクソソーム治療は行われていなかったため、法律の対象となっておらず、そのため現状では専門委員会の承認や専用施設で培養する必要がなく、完全な自由診療として行うことができます。多くの場合は、細胞と同じように専用の施設で無菌的に培養された培養上清を使用していると考えられてはいますが、そういった施設の管理には多くの費用や労力がかかるため、中には不適切な環境下で作られた培養上清を治療に使っている場合があることも否定できません。

このような状態を受け、日本再生医療学会や再生医療抗加齢学会からは、幹細胞培養上清治療やエクソソーム治療に対する注意喚起や、これらの治療も法律の対象とすべきといった声明が出ています。 そのため、これらの治療を受ける際には担当の医師の先生に十分に相談し、特に安全性についてはよく確認してから治療を受けるようご注意ください。

最後に

けんたろう先生

再生医療の中でも幹細胞培養上清治療やエクソソーム治療は新しい治療です。とても可能性のある治療法ではありますが、現段階では治療効果の解明や規制の整備などが十分に整っていないため、どこのクリニックでも安心して受けることができるとは必ずしも言えない状況です。みなさんの健康を守るためのはずの医療が、医療機関側の不適切な管理によってみなさんの健康を害することはあってはならないことです。その責任は当然治療を提供する側にありますが、みなさんも自分自身の健康を守るためにも曖昧な情報や治療費だけで判断せずに、担当の医師に十分ご確認ください。