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NPO法人血管医学研究推進機構

夢の治療最前線〜血管再生医療について

「再生医療」と聞いて、みなさんはどのような治療が思い浮かびますか?
「失った手や足を生やすことができる治療?」「iPS細胞を使う治療ってテレビで見たことがあるような?」と思い浮かべた人もいると思いますし、「聞いたことはあるけれど、どんなものなのか分からない。」「もう実際に行われているの?」と思った人も多いのではないでしょうか?

再生医療は比較的新しい医療ですし、私たちにとってはまだあまり身近ではないかもしれません。でも、実はすでに実用化されている再生医療も多く、これまでに治すことが難しかった病気やけがに対して治療成果を上げています。
今回は、再生医療とはどのようなものか、そして血管再生医療の最新の状況について、分かりやすく説明いたします。

再生医療のキーワードは「幹細胞」と「成長因子」

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再生医療を一言で言うと、「私たちの体が備えている修復する力」を利用して病気やけがを治す治療方法です。例えば擦り傷や切り傷を負っても、1週間もすれば傷がふさがって元に戻るように、私たちの体は異常が起こっても修復する力を、細胞レベルで備え持っています。その仕組みをもう少し詳しく知ってもらうために、覚えてほしいキーワードが2つあります。それは「幹細胞」と「成長因子」です。どちらも初めて聞く人が多いかもしれませんね。

「幹細胞(かんさいぼう)」は、その名の通り「幹」となる細胞のことです。木の枝が折れても幹からまた新しい枝が生えてくるのと同じように、実は私たちの体のいたるところに幹となる細胞がいて、体を成長させたり、修復する役割を担っています。擦り傷が治るのも、皮膚の幹細胞が新しい皮膚細胞を作り出し、その皮膚細胞が分裂・増殖して傷をふさぐからなのです。
でも、皮膚細胞は普段はほとんど増殖しないのに、なぜ傷を負ったときにだけ活発に増殖するのでしょうか?それに関係するのが「成長因子」です。成長因子もその名の通り、「細胞を成長させる因子」です。皮膚に傷を負った場合、傷ついた部位や幹細胞からこの成長因子が分泌されます。そして、この成長因子を皮膚細胞が受け取ると、分裂・増殖を行い、傷を修復するのです。再生医療では、このような体の「治る」仕組みを治療に利用します。

「血管再生医療」の最前線

それでは、「血管再生医療」とはどのようなものでしょうか?そうです、血管の幹細胞や成長因子を利用して、血行が悪くなってしまった体の部位に新しく血管を作り出し、血行を回復させる治療法が、「血管再生医療」です。現在、製薬企業や大学病院などで多くの血管の再生医療の研究開発が行われており、臨床研究段階のものや、すでに承認を受けて実用化されている治療もあります。その中から代表的なものを紹介します。

血管再生医療① HGF遺伝子治療薬『コラテジェン®』

一つめは、本機構の理事の森下竜一先生が開発した、血管の「成長因子」を利用する再生医療です。この治療法で使われる成長因子が、「肝細胞増殖因子」(英語名の頭文字を取って”HGF”と呼ばれます)です。この成長因子は、最初に肝細胞を増殖させる因子として発見されたためこの名がつけられましたが、その後の研究で、血管を含む多くの種類の細胞を増殖させる働きがあることが分かっています。

それでは、なぜ「遺伝子治療薬」なのでしょうか?「遺伝子治療」というと、なんだか怖く感じるかもしれませんね。でも、決して危険な治療ではありません。実は、私たちの細胞は、常に色々な遺伝子の命令を受けることで活動しています。細胞に分裂しろと命令する遺伝子もあれば、お酒を飲んだ時にアルコールを分解しろと命令する遺伝子もあります。
このHGF遺伝子は、血管の成長因子であるHGFを作る命令を細胞に与え、そうすることで新しい血管を作り出す働きを持っています。そこで、このHGF遺伝子を薬として患部に注射することで、その部位の血管細胞を増殖させて新しい血管を作り出し、血行を改善するのがこの治療法です。2019年に厚生労働省から承認を受けており、保険適用として治療を受けることができます。

血管再生医療② 『自己生体外培養末梢血単核球細胞移植治療』

コラテジェン®が成長因子を利用する再生医療であるのに対して、こちらは血管の「幹細胞」を利用する治療法です。なんだか長くて難しそうな名前ですが、簡単な言い方をすると「自分の血液から採取した血管の幹細胞を、体の外で増やしてから体に戻す治療法」です。

実は私たちの血液の中には、赤血球や白血球に混じって「血管内皮前駆細胞」という血管の幹細胞が存在します。この細胞を世界で最初に発見したのが、本機構の理事長の浅原孝之先生です。この血管の幹細胞が、血管新生や血管修復の役割を担っているのですが、ただし体の中に存在する数は少なく、病気になるとさらに数が減り機能が衰えます。
浅原先生と本機構の協力医師の田中里佳先生たちは患者さん自身の血液から血管の幹細胞を含む単核球を取り出し、培養して血管幹細胞の数を増やし機能を改善した後に、患部に注射する治療法を開発しました。高齢や病気により血管幹細胞の数と機能が低下しても、この治療で血管が乏しくなった部位に新しく血管を作り出し、血行を回復することが可能となる新しい治療法です。

こちらは2020年4月現在、重症下肢虚血潰瘍を対象とした臨床試験が田中先生を中心に進められています。保険診療となり治療を受けることができるようになるのはまだ少し先になりますが、新しい血管再生医療として期待されています。

おわりに

このように、再生医療という新しい治療法によって、これまで治すことが難しかった病気やけがを治すことができるようになってきました。今はまだ、対象となる疾患や治療を受けられる施設も限られていますが、日々、多くの研究や治療実績が積み重ねられていますし、再生医療が私たちにとって身近な医療となる日が、近い将来きっと来るでしょう。