発生生物学的観点から生物の再生について

はじめまして、令和2年度のマナビラボを担当します岡村です。
私は10年以上再生医療の世界に関わっていまして、現在は再生医療の治療製品をつくる仕事に携わっています。
再生医療についてみなさんに興味をもってもらえるように、できるだけ分かりやすく伝えていきたいと思いますので、これから1年間よろしくお願いします。

人の体が作られる仕組み

さて、第1回目は「発生生物学的観点から生物の再生について」です。まずは私たちの体がどのようにして作られるかを学びましょう。
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(画像元:SKiP ウェブサイト https://skip.stemcellinformatics.org/knowledge/basic/02/)

ご存知の通り、私たちの命はたったひとつの受精卵から始まります。受精卵は細胞分裂を繰り返しながら、筋肉、皮膚、血管、神経、肝臓など様々な細胞を作り出して、私たちの体が作られます。この時、受精卵の細胞がいきなり筋肉や皮膚の細胞を作り出す訳ではなく、段階を踏みながら、少しずつそれぞれの細胞へと変化していきます。
受精卵からある程度細胞分裂が進むと、まず、将来的に肝臓やすい臓などの内臓になる細胞 (内胚葉)、血管・心臓・筋肉や皮膚などになる細胞(中胚葉)、眼や神経などになる細胞(外肺葉)の3つの細胞の集団へと分かれます。そこから次の段階として、「幹細胞」と呼ばれるそれぞれの組織の元となる大切な細胞が作り出されます。例えば中胚葉からは、筋肉の幹細胞、皮膚の幹細胞、血球の幹細胞などが作られます。そして皮膚の幹細胞から、最終的に私たちの皮膚を構成している細胞が作られます。この幹細胞が次から次へと新しい細胞を産み出すことで、私たちの体は形作られ、成長することができます。

この過程の中で、細胞の方向性を決めるのに重要な役割をするのが「成長因子」と呼ばれる物質です。成長因子は細胞の色々なスイッチを入れる働きがあり、細胞分裂のスイッチを入れる成長因子もあれば、細胞の変化の方向性を決めるスイッチを入れる成長因子もあります。同じ中胚葉の細胞でも、筋肉のスイッチを入れられれば筋肉幹細胞に変化しますし、皮膚のスイッチを入れられれば、皮膚幹細胞に変化します。この成長因子が、必要な細胞に、必要な時に、必要なスイッチを正確に入れることで、私たちの体は正常に作られるのです。

このように、受精卵から始まり、それぞれの細胞が段階的に、かつ正確に方向性を決められながら、最終的にそれぞれ血管・心臓・皮膚や筋肉、神経といった専門の細胞になり、私たちの体が形作られます。このような過程のことを「発生」といい、その仕組みを研究する学問が「発生生物学」です。発生についてはまだ完全に解明されてなく、今でも世界中で多くの研究が進められています。

体が治る仕組み

では、大人になって体が出来上がった後はどうでしょうか?体の成長が終わった後は、幹細胞はいなくなってしまうのでしょうか?
そんなことにはありません。私たちがケガをした場合、ちょっとしたケガであれば1週間もすれば傷はふさがって元に戻ります。これを「再生」といいます。実は再生が起こるときにも幹細胞と成長因子が関わっています。私たちの体にケガなどの異変が起こると、その部位に成長因子が放出されて、それによってスイッチを入れられた幹細胞が、新しい細胞を作り出し、再生が起こります。
この私たちの体が持っている再生の仕組みを利用した治療法が「再生医療」なのです。

今月の学び

私たちの体が形作られる過程を「発生」、傷ついたときに元通りになることを「再生」といい、そのどちらにも「幹細胞」と「成長因子」が関わっています。再生医療は、このような体の仕組みを利用した治療法です。