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NPO法人血管医学研究推進機構

MRIの最新技術I:血液・脳脊髄液の動きの可視化

黒田 輝
東海大学情報理工学部情報科学科

はじめに

MRI(Magnetic Resonance Imaging, 磁気共鳴画像化法)は従来主に,形態学的画像に得て正常解剖との違いを見ることによって診断に供してきました.しかし近年では、装置・技術の発達により,機能・動態・化学的組成など高次の生体情報が得られるようになってきました.本稿ではそれらの最新技術のうち,体内の血液や脳脊髄液といった流体の動態を画像化する技術について述べたいと思います.

MRIの原理

まずMRIの原理をごく簡単に説明しましょう.図1を見て下さい.MRIで検出するのは原子核群からの発せられる電磁波です.臨床で使われるMRIでは通常体内の水素原子核を観察します.水素原子は1つの陽子と1つの電子から成り立ちますから,水素の原子核は陽子(プロトン)そのものです。私たちの体は体重の60%程度の水や20%程度の脂肪で成り立っていますから、水素の原子核がたっぷりあります。身体に磁場を加えますとその磁場の強さに比例したペース(周波数)で、身体中の原子核が回転運動(これを歳差運動といいます)をします。この状態で、これと同じ周波数の電磁波を当てますと、原子核群がその電磁波のエネルギーを吸収します。しばらくして電磁波を当てるのと止めますと今度は、原子核群からほぼ同じ周波数を持つ電磁波(磁気共鳴信号)を発してきます。これを体の周りに置いたアンテナで受信し、コンピュータで処理をすると、体内の様子が原子核の分布の様子として見える、というのがMRIの原理です。MRIでは加える磁場の強さを適当に変えることによって、身体を輪切り(横断面)、縦割り(矢状面)、横割り(冠状面)、あるいは斜め割り(オブリーク面)といったように自由な断面で見ることができるのが特徴です。またX線CTと違って、体内の原子を電離させるような放射線を使わない点はとても重要な特徴です。ただし1.5 T(テスラ。1Tは1万ガウス)や3 Tといった大変強い磁場や高周波の磁場を使いますので、体表や体内の金属が引き付けられたり、発熱したりする可能性がある点には十分な注意が必要です。
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血流とMRI

磁気共鳴信号は、身体に加える磁場の強さで周波数が変わります。ですから、加える磁場の強さを、例えば血流の向きに沿って変えれば、血液から発せられる磁気共鳴信号の周波数に変化を与えることができます。この変化を測れば血流が画像化できます(図2)。あるいは観ている断面から血流が出て行ったり(図3)、入って来たり(図4)するのを測れば血液だけ暗い画像や逆に明るい画像を見せることができます。さらに心臓に近い側(血流の上流)でエネルギーを与えて、しばらくして流れ込んでくるところを見れば、血流を動脈と静脈に分けて見せることもできます(図5)。もちろんガドリニウムを使った造影剤を利用して、X線CTにおけるのと同様に血管を造影することも可能ですが、MRIでは造影剤を使わなくても(非造影)血流を画像化することができますので、最近では非造影の方法が使われることが増えています。

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脳脊髄液とMRI

体の中で動く液体は血液以外にも、リンパ液や脳脊髄液が挙げられます。このうちリンパ液は、血液中の液体成分である血漿(けっしょう)を主成分としますが、この中には細胞から出た老廃物、細菌、ウイルスなどが含まれます。リンパ液はこれらと一緒にリンパ管を循環し、リンパ節の中のリンパ球やマクロファージの働きを受けて浄化され、静脈へと戻ってゆきます(1)。
従来、脳ではこのようなリンパ系がないと考えられていましたが、リンパ系と似た働きを担っているのが脳脊髄液であるということが近年の研究で明らかになり、大変注目を集めています。ごく簡単に述べますと、脳室系と呼ばれる器官や脳の表面付近にある脳脊髄液が、血管の外側を2重管のように覆う通路(血管辺縁系)を介して細胞外液と交通し、神経細胞周囲の老廃物を押し流し、やがて首から下のリンパ節に運搬するというしくみです。しかもこのしくみは睡眠中に活発になることが動物実験で示されています。これは現在Glymphatic Systemという名の仮説で説明されていますが、関連研究が活発に進められており、しくみの全容はまだ解明されていません。少なくともこのようなしくみのために、従来考えられていたような脳脊髄液の産生と吸収、それに伴う循環、といった概念が塗り替えられつつあります。脳脊髄液はこのような物質輸送に加えて、心拍動や呼吸による脳への血液の流入出に伴う頭蓋内圧力変動の調整、ならびに脳の外的衝撃からの保護といった、少なくも3つの重要な役割があります。これらの役割を追求するためには、関連する脳脊髄液の動きや、それらの間の相互関係の解明が不可欠であり、ここでMRIが重要な研究手段となっています。脳脊髄液の動きは太い血管における血液の動きよりは遅いですが、血流の画像化法を応用して、いくつかの可視化法が提案されています。図は一定時間における磁気共鳴信号の周波数変化を利用した脳脊髄液の速度測定に基づく頭蓋内圧力勾配の可視化結果です。
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おわりに

血液や脳脊髄液の動きと、MRI応用したそれらの画像化の新しい技術について述べました。MRIではこのように水分子そのものの動きや速度が可視化できますので、医学上の重要課題である脳脊髄液の動態解明などについて、今後も大いに力を発揮すると思われます。

参考文献

(1) https://www.lymphangioma.net/doc1_2.html
(2) 松前光紀ら. 脳脊髄液運動の新知見. 脳神経外科2016;44(11):909-924.

謝辞

本稿で紹介した研究内容について本学医学部脳神経外科 松前光紀教授、同・放射線科 今井裕教授、ならびに当研究室の学生ら関係諸氏に感謝の意を表します。

著者プロファイル

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1984年神戸大工学部卒、1986年同大・大学院工学研究科修士了。1986年日本電気(株)勤務。1988年大阪市大工学部助手。1995年ハーバード大医学部放射線科客員研究員。1999年から東海大、2009年同大・情報理工学部情報科学科教授、現在に至る。この間(財)先端医療振興財団分子イメージング研究グループ上席研究員、(公)神戸国際医療交流財団首席研究員、千葉大学フロンティア医工学センター特別研究教授など兼務。MRIによる温度分布画像化、脳脊髄液動態画像化などインターベンショナルMRI関連の研究に従事。博士(工学)。国際磁気共鳴医学会(ISMRM)フェロー。