DNAワクチンって何?遺伝子治療を応用した最新の新型コロナワクチン開発について

イモじろう

新型コロナウイルスはまだまだ収まる気配が見えないけど、ようやく待ちに待ったワクチン接種が始まったね!

けんたろう先生

そうだね。これで感染の拡大が収まることを期待しています。

イモじろう

最新のワクチンはDNAやRNAというキーワードを見かけるけれど、どういうことなの?

けんたろう先生

以前のワクチンは、ウイルスそのものが使われていましたが、より安全に使えるように最近はDNAやRNAを使ったワクチンが開発されています。それでは、それらの最新のワクチンの開発状況を見ていきましょう。

新型コロナウイルスワクチンの開発状況

新型コロナウイルス感染症の世界的流行が始まって以来、世界中の多くの製薬会社で新型コロナウイルスに対するワクチン開発が行われてきました。日本では2021年7月現在、ファイザー社、モデルナ社、アストラゼネカ社のワクチンが承認されています。このうちファイザー社とモデルナ社のワクチンは公費で受けることができ、一般向けの接種も広く行われるようになってきています。

下の表は日本国内での新型コロナウイルスワクチンの開発状況をまとめたものです。いくつかの日本企業がワクチンの開発を進めていますが、現在のところ、最も進んでいるアンジェス社でも第2/3相治験中で、これらが承認され接種をできるようになるまでにはもう少し時間がかかりそうです。

状況開発企業ワクチンの種類
承認ファイザー(米)/ビオンテック(独)RNA
モデルナ(米)RNA
アストラゼネカ(英)/オックスフォード大学(英)ウイルスベクター
承認申請中ジョンソン&ジョンソン(米)ウイルスベクター
第2/3相治験アンジェスDNA
第1/2相治験塩野義製薬組み換えタンパク
第一三共RNA
KMバイオロジクス不活化ウイルス
前臨床試験IDファーマウイルスベクター

これまでは、ワクチンといえば発症しない程度に薄めたり弱らせたりしたウイルスを使うことが一般的でしたが、上の表を見ての通り、新型コロナウイルスワクチンの開発ではDNA(ウイルスベクターもDNAワクチンの一種です)やRNAを使ったワクチンの開発が主流となっています。
いったいこれらはどのようなワクチンなのでしょうか?これからいっしょに学んでゆきましょう。

そもそもワクチンって何?

なぜワクチンを接種すると感染や発症を防ぐことができるかについては、すでに色々な記事やニュースで読んだり聞いたりされたことがあると思いますが、簡単に言うと、ワクチン自体にはウイルスを殺す作用はありませんが、私たちの体が元々持っている免疫力を高めることでウイルスを攻撃し、感染や発症を防ぐ効果があります。

この時、私たちの免疫は手当たり次第に攻撃をするのではなく、ウイルスに標的を定めてピンポイントに攻撃する仕組みを備えています。例えば警察官が犯人を捕まえるときには、道行く人を手当たり次第逮捕するのではなく、指名手配書の写真を見て特定してから犯人を逮捕するのと同じ仕組みです。
ただし、逆に言えば犯人の顔を知らないと逮捕ができないように、私たちの免疫も出会ったことのないウイルスに対しては攻撃ができないため、新型コロナウイルスのように未知のウイルスが体内に侵入した場合には、感染して発症してしまいます。
そこで、あらかじめ体にウイルスの情報を教えておくことで、いざウイルスが侵入してきたときにすぐに攻撃することができるようになり、感染や発症を防ぐことができます。これがワクチンの仕組みであり、この「ウイルスの情報」が「ワクチン」です。

体にあらかじめ「これがウイルスだ」と教えるために、以前は発症しない程度に薄めたり弱らせたりしたウイルスそのものをワクチンとして接種していました(これらを生ワクチンや不活化ワクチンといいます)。もちろんこれらは今でもワクチンとして有効な方法の一つではあるのですが、薄めたり弱毒化しているとはいえウイルスそのものを接種することから、それによって発症してしまうリスクもゼロではありません。

手配書型ワクチンの登場!

そこで最近では、ウイルスそのものではなく、ウイルスの「指名手配書」として体に教えることができるようになりました。ウイルスそのものではないため、体にとっては安全な方法です。

さて、「指名手配書」の条件とは何でしょうか?
それは、その手配書を見てきちんと犯人だと識別できることです。
いくら本人の写真とは言っても手や足の写真を載せられても識別できませんので、犯人の顔をはっきり載せないと手配書の意味がありません。それと同じように、ワクチンもウイルスの「顔」となる部分を体に示さないと意味がありません。
近年、技術の発達によって、ウイルスの「顔」となる部分が明らかになってきたこと、それを手配書として体に示すことができることになったことから、手配書型の新しいタイプのワクチンが開発されました。それが「DNAワクチン」や「RNAワクチン」です。

最新のワクチン技術・DNAワクチンとRNAワクチン

それでは、「DNA」や「RNA」とは何でしょうか?

令和3年度マナビラボ第1回では、「遺伝子=体の設計図」であり、その設計図は「DNAという文字で書かれている」というお話しを致しました。RNAは、さらにそれを分かりやすく書き換えた文字です。DNA=漢字、RNA=ひらがな、といったイメージです。実際の細胞の中でも、このようにDNAがRNAに翻訳され、それを細胞が読み取って様々な働きをします。

そこでウイルスの遺伝子の設計図の中から、「顔」となる部分を抜き出したものが「DNAワクチン」、それを読みやすく変換したものが「RNAワクチン」です(より正確に「mRNA(メッセンジャーRNA)」と呼ぶ場合もあります)。つまり、これらのDNAワクチンやRNAワクチンを体に接種すると、それらを受け取った細胞が体の中で新型コロナウイルスの「指名手配書」を作り出してくれるのです。

これらはウイルスの「顔」の部分だけですので感染力も毒性もありません。ただし、その手配書を見た体内の免疫が一時的に活性化することで、熱が出たりダルさを感じたりすることがあります。これが副反応です。体の免疫を活性化させるというワクチンの仕組み上、このような副反応が出てしまうことがあります。通常は軽い風邪のような症状で数日でよくなりますが、あまりに症状がひどい場合や長引く場合は、医師の診断を受ける必要があります。

実はこれまでにDNAワクチンやRNAワクチンとして承認されたものは世界的にもなく、今回の新型コロナウイルスに対するワクチンが初めてとなります。臨床試験では非常に高い効果が見られていますが、長期的な効果や変異株に対する効果はこれから明らかになっていくことと思います。また従来の不活化ワクチンの開発も進められており、その比較もこれから行われていきます。

DNAワクチンは遺伝子治療の応用!

さて、ここまでDNAワクチンやRNAワクチンについて説明してきましたが、同じような治療法を聞いたことがないでしょうか?そう、血管の遺伝子治療ですね。
ワクチンでは新型コロナウイルスの遺伝子の顔の部分を体内に送り込みますが、「HGF」を送り込むのが血管の遺伝子治療であり、それを開発したのがアンジェス社です。つまり、アンジェス社が開発したコラテジェンのHGFの部分を新型コロナウイルスの顔の部分に変えれば、ワクチンとして利用できる可能性があります。
そこでアンジェス社は新型コロナウイルスのワクチンの開発に取り組み、2021年7月現在第2/3相治験を実施中と、日本国内企業ではもっとも開発が進んでいます。残念ながらファイザー社やモデルナ社といった海外企業には先を越されてしまいましたが、国産ワクチンとして、近い将来承認され接種を受けることができるようになることが期待されています。

今月の学び

イモじろう

新型コロナウイルスに対して、世界中で色々な種類のワクチンが開発されているんだね。。

けんたろう先生

そうですね。DNAワクチンやRNAワクチンは、遺伝子治療を応用した新しいワクチンです。これらのワクチン効果で、穏やかな日常が戻る日を願っています。