最新研究情報の紹介:イモリのほぼ完全な皮膚再生メカニズムを解明!

イモじろう

明けましておめでとうございます。けんたろう先生、今年もよろしくお願いしますね!

けんたろう先生

みなさん、明けましておめでとうございます。イモじろう君、今年もよろしくお願いしますね。今回は最新研究情報として、アカハライモリの皮膚の再生の仕組みについての研究結果を紹介します。

イモじろう

僕の体の仕組み!とても興味があります!

けんたろう先生

それでは、2021年12月に発表された最新の研究論文を紹介いたします。

研究成果は「論文」として世界中に発表される!

世界中の大学や研究機関で日々数多くの研究が進められていますが、その成果をまとめて発表したものが「論文」です。論文は専門家によるチェックを受け、そこで認められると学術雑誌に掲載され、世界中の研究者に向けて発表することができます。例えばiPS細胞の発見も、論文として発表して初めて世界中から注目を集めるようになりました。

今回紹介する論文は、アカハライモリの研究で有名な筑波大学の千葉教授たちのグループが2021年12月に発表した論文です。

論文のタイトルは”Skin Wound Healing of the Adult Newt, Cynops pyrrhogaster: A Unique Re-Epithelialization and Scarless Model” (成体アカハライモリの皮膚創傷治癒:ユニークな再表皮化と無瘢痕モデル)です。

研究成果は世界中の研究者に向けて発表されるため、論文は英語で書かれます。興味がある方は上の画像を押すと論文の全文を見ることができますので、ぜひご覧ください。

アカハライモリは皮膚の再生もチャンピオン!

研究論文だけあって、日本語で聞いてもなんだか難しいタイトルですね。『再生のチャンピオン』として当機構でもおなじみのアカハライモリの再生能力の中で、皮膚の再生力について研究した成果が今回の論文です。

私たちが皮膚に傷を負った時、軽い傷であれば1週間も経てばすっかり元通りに戻ります。ところが深い傷を負った場合は傷跡として残ってしまうことがあります。この傷跡のことを「瘢痕(はんこん)」と呼び、健康に影響があるわけではありませんが、場所や大きさによっては日常生活に影響が出ないとも限りません。

ところが再生のチャンピオンのアカハライモリは、深い傷を負っても瘢痕ができることなく元通りに皮膚を再生することができます。しかし、アカハライモリの皮膚がどのようにして瘢痕をつくることなく傷を完全に回復するかは分かっていませんでした。そこでこの研究では2年以上かけて実験と観察を行い、アカハライモリの皮膚がどのようにして再生するかのメカニズムを解明しました。
それでは、論文の内容を見ていきましょう。

「瘢痕」は応急処置の副産物

アカハライモリの皮膚の再生について見ていく前に、まずは私たちが深い傷を負ったときにできる「瘢痕」とはいったい何かを見てみましょう。

私たちの皮膚は一番外側でバリアの働きをする「表皮」と、その内側で表皮を支える「真皮」からできています。真皮では線維芽細胞が分泌するコラーゲンやエラスチンといった弾性タンパクによって、肌のハリや弾力が保たれています。
実はこのコラーゲンやエラスチンといった弾性タンパク質のかたまりが、瘢痕の正体です。

私たちの皮膚が傷ついたとき、表皮までの浅い傷であれば表皮細胞が増殖して傷をふさいで元通りに再生することができます。ところが、傷が深く真皮まで達してしまった場合には、表皮の増殖だけでは傷をふさぐことはできません。この時傷口ではまずかさぶたができて止血が起こり、続いて集まってきた免疫細胞によって炎症が起こります。この炎症を線維芽細胞が嗅ぎつけ集まってきて、真皮を再生しようとコラーゲンやエラスチンなどを分泌します。ただし、体を形作る発生とは異なり、傷をふさぐために急いで無秩序に分泌した結果、それらがかたまりとして残ってしまい、修復された箇所だけ周囲の皮膚と比べて色が違ったり凸凹したり、また毛穴がなくその部分だけ毛が生えなくなったりします。この状態が瘢痕であり、いわば応急処置の副産物です。

解明されたアカハライモリの修復メカニズム!

それでは、アカハライモリが深い傷を負った場合はどうなるのでしょうか?論文の内容を見ていきましょう。

アカハライモリの皮膚の再生力が強いことは以前から知られていましたが、その秘密は皮膚の構造にあるのでしょうか?そこでまずアカハライモリの皮膚の構造を調べた結果、アカハライモリも私たちと同じように表皮と真皮から構成されていることが分かり、特殊な構造によって再生力が高いわけではないことが分かりました。

次に実際にアカハライモリの頭、腕、胴などの皮膚に深い傷をつけ、それぞれの傷口を観察しました。少し時間はかかりますが、下の写真のようにどの場所でも瘢痕を形成することなく元通りに修復されました。

修復されるまでの様子を詳しく観察し調べたところ、傷口のふさがり方がヒトの皮膚とは全く異なることが分かりました。ヒトの皮膚の場合、まずかさぶたができて止血され、その後集まってきた線維芽細胞がコラーゲンやエラスチンを分泌することで傷がふさがれますが、アカハライモリでは傷ができてから約6時間という非常に早い段階で周囲から表皮が伸びてきて傷を覆い、その後にゆっくりと真皮が再生されました。表皮が傷口を覆うと同時に炎症も抑えられ、コラーゲンやエラスチンの無秩序な分泌も起こらないため、その結果、瘢痕ができることなく元通りに皮膚を再生することができることが分かりました。

助け合いですばやく表皮化!

アカハライモリの皮膚再生のユニークかつ重要なポイントのひとつは、「表皮がとても早く傷を覆う」という点です。そこでこの研究では、なぜアカハライモリではこのようなすばやい表皮化が可能であるかも調べられています。

ヒトの場合、表皮が再生するときには傷口の箇所にいる表皮の幹細胞が活発に分裂・増殖しながら再生します。ところがアカハライモリでは、傷口の箇所の細胞増殖はほとんど変化せず、その周囲の傷ついていない箇所の細胞の分裂・増殖が広い範囲で活発になり、表皮を押し出すようにして傷口を覆っていきます。まさに、日本や世界のどこかで災害が起こった時に私たちがみんなで復興を支援するのと同じような状況です。

最後に少しだけ専門的な話として、この「その周囲の傷ついていない箇所の細胞の分裂・増殖が広い範囲で活発になる」という現象をどのようにして見つけたのかを紹介します。

いくらアカハライモリの再生力が強いと言っても、眼で見て分かるほどはっきりと細胞が分裂しているわけではありません。そこで病院の検査で作られるのと同じように、皮膚の組織標本を作って調べます。作製した組織標本にPCNAという特殊な試薬を反応させます。組織標本では細胞の核は青く染まっていますが、このPCNAを反応させると、増殖している細胞の核だけを茶色に染めることができます。

今回の研究では、実験前は傷口の箇所の細胞が活発に分裂しているだろうと予測していましたが、実際に標本を作って確かめてみると、意外なことに傷口の箇所ではなく周囲の無傷な場所の細胞の増殖が活発になっていることが分かったのです。

今月の学び

イモじろう

自分の体にこんな仕組みがそなわっているなんてびっくり!こうやって色々なことが研究されて、論文として報告されているんだね。

けんたろう先生

そうです。こうやって研究成果を発表し、その成果がほかの研究者の研究に活かされ、それが繰り返されて数多くの研究成果が積み重なって最先端の研究につながります。

今回の研究成果がすぐに人での治療に役立つわけではありませんが、こういった知見を集めることで、将来的に人でも瘢痕を作らない治療ができるようになると期待されます。

イモじろう

ぜひまた最新の研究情報を教えてくださいね!