変異型ウイルスって危険なの?ウイルスが変異する仕組みと変異型が危険な理由

イモじろう

新型コロナウイルスの広がりがようやく落ち着いてきたかと思ったら、今度はオミクロン株という新しい変異型が出てきたね。オミクロン株はこれまでの新型コロナウイルスよりも危険なの?

けんたろう先生

“変異”と聞くとなんだか怖く感じてしまいますよね。オミクロン株の危険性については現在調査が進められているところですが、実はウイルスの変異自体はよく起こっています。大半の変異はウイルスの性質に影響はありませんが、場合によっては危険性が増すこともあります。

イモじろう

そうなの?そもそもウイルスが変異するってどういうことなの?なぜ起こるの?

けんたろう先生

それでは、今回はウイルスの変異とはどういうものか、その仕組みとなぜ危険なのか詳しく学びましょう。

ウイルス自体は何もできない単なる設計図!

ウイルスの変異についてお話しする前に、ウイルスとはいったい何かを知る必要があります。ウイルスと言えば、「感染すると病気になるもの?」「菌の仲間?」というイメージですが、たしかにウイルスと菌は同じように人に感染して病気を引き起こします。しかし、実はまったく別のものです。例えば大きさもまったく違い、どちらも目では見えないほど小さいのですが、人を地球の大きさに例えた場合、細菌はゾウくらいの大きさ、ウイルスはさらに小さくネズミくらいの大きさです。

そのような小さなウイルスの中に何が入っているかというと、ウイルス自身の遺伝子のみです。令和3年度第1回マナビラボ で、遺伝子は設計図、細胞はその設計図を読んで働く社員というお話をしました。社員が設計図に従って働くおかげで、細胞は色々な機能を発揮することができますし、分裂して増殖することもできます。一方でウイルスは、その社員がいなくて設計図だけを持っている状態です。そのため、ウイルス単独では何の機能も持たず、自分を複製して増殖することもできません。

ウイルスは細胞を乗っ取ることで自分自身を複製する!

何もできず、複製・増殖もできないのなら、感染したところで何も害はないはずですし、病気の大流行も起こりません。ところが、ウイルスは自分自身では何もできないのですが、ヒトや動物、植物など様々な生物の細胞に入り込み、自分の設計図を元にして、自分の増殖に必要な働きをさせて増殖することができるのです。このようにして、ウイルスは自分自身を複製します。

ウイルスが入り込んだ細胞は、ウイルスの設計図のせいでその細胞本来の機能の働きができなくなり、最終的に死んでしまいます。このような機能不全や細胞死が体内の組織や臓器で起こることで、体に悪影響が起こります。これがウイルス感染によって病気が起こる原因です。

ウイルスは「鍵」を使って細胞に入り込む

ただし、ウイルスはどんな細胞にも入り込めるわけではありません。私たちが、家に不審者が入ってこないようにドアに鍵をかけて戸締りをしているように、細胞も侵入者が入って来れないように細胞膜によってしっかり守られています。ところが、ウイルスはそれぞれ「鍵」を持っていて、その鍵がぴったり合った細胞に入り込むことができるのです。細胞によって鍵穴は違っていて、新型コロナウイルスは、気道の粘膜細胞や肺の肺胞上皮細胞といった呼吸器系の細胞に対する鍵を持っており、それらの細胞に感染し、その結果、呼吸器不全が引き起こされます。また、動物・植物の種類によっても鍵穴は違っています。そのため、ある特定の動物や植物にしか感染しないウイルスも存在します。

また、細胞に入り込んだウイルスが必ずしも細胞に悪影響を与えるわけではありません。細胞に影響を与えない程度に増殖するウイルスもいれば、中には入り込んだものの何もせずまったく無害なウイルスもいます。現在分かっているだけで、地球上には約3万種類のウイルスがいると言われていますが、実際にヒトの細胞に感染して病気を引き起こすウイルスはその中のごくわずかです。

変異の正体は単なる「書き写し間違い」!?

さて、前置きが長くなってしまいましたが、ここから変異のお話しです。

令和3年度第1回マナビラボの中でお話ししたように、遺伝子はA,T,G,Cの4種類のDNA(ウイルスの種類によってはRNA)が順番につながってできたもので、DNAによる文章を細胞が読み取って働きをこなします。ウイルスの持つ「鍵」や、細胞に入り込んだ後に細胞に与える影響、また令和3年度第4回マナビラボでお話ししたウイルスの「顔」の情報も、すべて遺伝子の中に含まれています。

細胞の中でウイルスが複製される時には、この遺伝子もまったく同じDNAの並び順で複製される必要があるのですが、その時に私たちが書き間違いをするのと同じように、細胞も書き写し間違いをすることがあります。この書き写し間違いが「変異」の正体です。写し間違いで文章が変わってしまうことで、元々の情報とは違う意味の情報として読み取られ、その結果、元のウイルスとは違った「鍵」や「顔」を持つウイルスができあがってしまいます。これが変異ウイルスです。

実はこの書き写し間違いによる変異は意外とよく起こっていて、新型コロナウイルスの場合、約3万文字の遺伝子情報を持っていますが、1回の複製につき1~2文字の変異が発生していると言われています。ただし、3万文字の情報の中で、「鍵」や「顔」といった重要な情報を示す文章はごく一部です。大半の変異はまったく関係のない場所に起こり、何の影響も及ぼしません。また、重要な文章の箇所に起こった場合でも、感染力の増強といったウイルスの悪性化が必ず起こるわけではなく、変化が起こらなかったり、逆に鍵が合わなくなって感染力を失ってしまうことの方が多いのです。しかしながら、このような変異が感染した体の中で繰り返された結果、それこそ何百億、何千億分の一の確率でより高い感染力を持ったウイルスや、「顔」が変わることでこれまでのワクチンが効かないウイルスが誕生する可能性があり、それこそが私たちが恐れている危険な変異ウイルスです。

オミクロン株は危険な変異ウイルス?

ではオミクロン株はどのような変異が起こっているのでしょうか。

オミクロン株では、初期の新型コロナウイルスと比較して全体で30ヶ所程度の変異が見られていて、その内の4ヶ所は「鍵」の部分に当たる部分で起こっており、感染力が増している可能性があります。また別の2ヶ所は「顔」の部分に起こっている可能性が考えられており、これまでのワクチンが効かない可能性があります。実際に、オミクロン株は海外ではこれまで以上のスピードで感染が広がっているという報告があり、またワクチンを接種済の方への感染も見られています。その一方で、感染した場合の症状はこれまでの新型コロナウイルスに比べて軽いとも言われており、今後の調査によってオミクロン株の危険性が明らかとなってきます。 このままオミクロン株が猛威を振るう状況になった場合には、その対策としてオミクロン株の変異部分を標的としたワクチンの開発が期待されます。

今の人類があるのはウイルスのおかげ!?

最後に私たちとウイルスの関係についてのお話しです。今回の新型コロナウイルス以外にも、インフルエンザウイルス、肝炎ウイルス、HIVウイルスなど、ウイルスは私たちの健康を脅かします。ではウイルスは私たちの敵の存在かと言うと、決してそうではありません。むしろ現在の人類があるのはウイルスのおかげとも言えます。実は、ウイルスは生物の進化に大きく関わっています。

ウイルスが私たちの細胞に感染した時、細胞核の中にある私たちの遺伝子の中にウイルスの遺伝子が組み込まれてしまうことがあります。これも変異の一種です。ウイルスの変異と同じように多くの場合は何の影響もありませんが、ごく稀に私たちの体の仕組みが変わるほどの変異が起こり、それが子孫に受け継がれることで生物の進化が起こったという説があります。実際に、ヒトの遺伝子情報を調べたところ、ウイルス由来と考えられる箇所が多数見られたという報告もあります。すべての進化がウイルスによって引き起こされたわけではありませんが、ウイルスなくして私たち人類や現在地球上にいる多くの動物・植物は存在しなかったと言えます。

今月の学び

イモじろう

ウイルスの変異は、ウイルスが複製される時の遺伝子の書き写し間違いによって起こるんだね。

けんたろう先生

そうです。変異自体はよく起こっているのですが、大半の変異はウイルスの性質に影響を及ぼしません。ただ、ごく低い確率でその変異が感染力や感染後の症状などの危険性に影響することがあります。今後、さらに様々な変異株が出現することが予想され、中には危険性が増したウイルスがあるかもしれませんが、引き続き感染対策を行って健康を守ってくださいね。