【夏休み特別企画】未来へつながる医療のお話:再⽣医療について学ぼう!2~iPS細胞の科学研究編~

イモじろう

今回も前回に続いて、未来の研究者のみんなに向けて、再生医療について教えてください!

けんたろう先生

今回は再生医療の中で一番有名なiPS細胞について触れてみましょう。 今回はiPS細胞の発見について、科学的な研究についてのお話しです。

イモじろう

科学的な研究、なんだか難しそう!だけどとっても興味があります。

けんたろう先生

iPS細胞については、これまでマナビラボでも「どのような細胞なのか?」「どういった治療に使えるか?」などについて紹介してきました。
山中先生のiPS細胞について。 その1〜発見に至るまでのプロセス
山中先生のiPS細胞について。その2〜iPS細胞を利用した医療応用、臨床研究について、現在どの程度まで研究が進んでいるの?

今回は未来の研究者のみなさんに向けて、iPS細胞がどのようなアイディアを元に発見されたのか、科学的な研究のお話しをしたいと思います。

iPS細胞はどのようにして生まれた?

iPS細胞を語る上でまず理解しておいてほしいのが、元祖万能細胞「ES細胞」の存在です。ES細胞についてはマナビラボ令和2年度・第8回をおさらいしてみてください。

このES細胞は、再生医療の開発につながるすばらしい細胞なのですが、受精卵からしか作ることができません。そこで山中教授は「このES細胞を私たちの体の細胞から人工的に作れないだろうか?」と考えました。

のちにこのアイデアが、iPS細胞発見へとつながりますが、今回は「なぜ遺伝子を導入しようと考えたのか?」そして「4つの遺伝子はどうやって決めたのか?」について、お話しします。

「研究」はどうやって進められる?

研究は、「こうしたらこうなるのではないか?」という「仮説」からはじまり、実際にその仮説が正しいことを証明し、そして発表して認められます。素晴らしい研究では、アイディアが普通では思いつかないような独創的な場合もありますし、アイディア自体はそこまで独創的でなくても、それを実現させた方法がすばらしい場合もあります。

ではみなさんは、iPS細胞の発見はどちらだと思いますか?

意外かもしれませんがiPS細胞の発見は後者の方にあたります。万能細胞を人工的に作り出すなんてとてもすごいアイディアと思うかもしれませんが(実際にすばらしいのですが)、実は当時、同じように細胞に遺伝子を導入することで万能細胞が作れるのではないか?という考えを持っていた研究者は少なくありませんでした。

遺伝子導入でiPS細胞が作れるのか?

マナビラボ 令和3年度 第1回でお話ししたとおり、「遺伝子」は細胞にとっての「仕事マニュアル」です。色々な遺伝子がそれぞれの細胞に仕事の指示を与えることで、細胞が活動して、私たちの生命は維持されています。そして、この遺伝子を細胞に導入することで、その細胞は新たな仕事ができるようになります。

例えば、お酒を飲んだ時、アルコールは肝臓で分解されます。この時、肝臓の細胞の中でADHという遺伝子がアルコールを分解する指令を細胞に出すことで、肝臓でアルコールが分解されます。例えば皮膚の細胞はアルコールを分解する働きはありませんが、このADH遺伝子を皮膚の細胞に入れてあげることで、皮膚の細胞もアルコールを分解することができるようになります。これが「遺伝子導入」です。

「仮説」から「検証」へ

肝臓のお話しと同様「ES細胞で働いている遺伝子を皮膚細胞に導入すれば、ES細胞と同じく万能細胞になるのではないか?」という考え方は、当初研究者の中で共有されていましたが、山中教授と当時大学院生だった高橋和則さん(現在は京都大学の准教授)は、多くの論文を調査して、ES細胞で特に重要と考えられる遺伝子として24種類を選び出し、その24種類を全部まとめて皮膚細胞に導入してみました。

するとこの方法は大成功でした。
24種類の遺伝子を導入した皮膚細胞はES細胞にそっくりな形に変身し、調べてみるとES細胞と同じく様々な細胞に分化できる万能性を持っていることが分かりました。

しかしこの24種類の中で、どの遺伝子が必要かを突き止めなければいけません。

本当に必要な遺伝子はその中の1つかもしれませんし、5種類必要かもしれません。

もしかすると24種類全部必要かもしれません。

組み合わせは1677万7216とおりもあります。

いったいどのようにして山中教授たちは、遺伝子の組み合わせを突き止めたのでしょうか?

ついに突き止めた4つの遺伝子!

山中教授たちが次に試してみたことは、24種類の遺伝子のうち1つだけを抜いて残りの23種類の遺伝子を導入してみました。もしそれでも同じように万能細胞に変身したら、その時除いた遺伝子は万能細胞への変身には必要ないことになります。逆に変身しなかったら、その遺伝子は万能細胞にとって重要だということになります。この実験を全部の遺伝子について24回繰り返した結果、Oct3/4Sox2Klf4c-Mycという4つの遺伝子をそれぞれ抜いた場合だけ、皮膚細胞は万能細胞に変身しませんでした。

・・・ということは、どうやらこの4つの遺伝子が重要そうです。
そこで、今度はこの4つの遺伝子だけを導入したところ、見事に万能細胞ができました。 補足)山中因子と呼ばれます。

このようにして試行錯誤の研究の末に生み出された世界で初めて人工的に作られた万能細胞は、「人工多能性幹細胞」の英語名(induced pluripotent stem cells)の頭文字を取って「iPS細胞」と名付けられ、後にノーベル医学・生理学賞を受賞する大発見となりました。

今月の学び

イモじろう

研究とは、仮設と検証を考えながら進めていくんだね。

けんたろう先生

はい、試行錯誤しながら進めていきます。

イモじろう

僕も大発見ができるようにたくさん仮説を立ててみよう!

けんたろう先生

みなさんも日頃から「これはどうしてだろう?」「もしかしたらこうかも?」という疑問を持ったり自分なりの仮説を立てたりする練習をしてみてください。
きっと将来の研究に役立ちます。